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ロボット手術はなぜすごい 連載 第1回

コラム ロボット手術はなぜすごい

2024/10/23

第1回 仮想現実の世界

ノラリ・クラリ(ロボット外科医)

What is “real”? How do you define “real”? If you’re talking about what you can feel, what you can smell, what you can taste and see, then “real” is simply electrical signals interpreted by your brain.
何が現実か? 現実の定義は? 感じるもの、匂うもの、味がするもの、見えるものは、単に脳が解釈した電気信号に過ぎない。
――映画『マトリックス』

わたしたちの知覚する現実は、われわれの脳が巧妙に創作した主観的世界らしい。生物は現実世界を感覚器官を通して感知するが、その捉え方は生物種によって異なることは想像に難くない。ドイツの生物学者であり哲学者であるユクスキュル(Jakob Johann Baron von Uexküll,1864~1944)は、すべての生物は自分自身が持つ知覚によってのみ世界を理解しているので、すべての生物にとって世界は客観的な環境ではなく、生物各々が主体的に構築する独自の世界であるとし、これを「環世界」と呼んだ。

ヒトの場合も、感覚器を通じて脳内で知覚し、現実世界を構築するといってまちがいない。ゲームではバーチャル・リアリティーが流行りだが、現実世界自体がわれわれの知覚が創りあげたバーチャル世界といってよい。ヒトであれば、その知覚様式は類似しているであろうが、これも他人になれないので理解することは不可能である。おそらく知覚には個人差もあるし、偏向(かたより)がある。仮に、北斎、ピカソ、山下清が同じ景色を見て構築する世界と私が構築する世界は異なるかもしれないが、証明はできない。そしてわれわれの知覚は主観から逃れることはできない。ゴッホの作品を見れば、彼の知覚様式は大きく異なるに相違ない。それがゴッホのスタイルである。いずれにせよ知覚については、幼少時からの興味や経験によって、微妙に異なってくる。「己六才より物の形状を写すの癖ありて・・・・・・」いう北斎とわれわれの視覚処理は異なるのではないか。

このような知覚処理の差異は、初めは微小であっても、長じるにつれて、外界の認識様式はしだいに大きくなってくる。最初の微小な差異は、嗜好や偏向、あるいは経験や偏見によって、情報収集の仕方自体にも影響を及ぼすのではないか。われわれは自分の知覚処理にあう情報を集めたがったり、都合の悪い情報は切り捨てたり、誤った処理の仕方で認識を歪める可能性もある1)。これがいわゆる個性というものである。外科医も、感覚入力(インプット)の相違か、知覚(情報処理)の相違か、それともアウトプットの相違か、一概には言えないし、全てが関与している可能性もあるが、出力であるパフォーマンスで評価される。手術のスタイルはトレーニングの環境や術者の個性によって微妙に異なる。そして手術の巧拙も生じてくる。名人もいれば、残念な外科医もいる。

ところが、ロボット支援手術であるダヴィンチ手術において、もちろん経験数によって巧拙やスピード感に多少の差はあるものの、多くの術者が高いレベルで精巧な手術を再現性を持って披露することが可能である。これはダヴィンチの支援によって、われわれの技能が一様にエンハンスされたことによる。開発したインテュイティブ・サージカル社の無数の特許は未だに多くが企業秘密となっており、開発の過程は明らかではないが、脳科学の知見で少しでも接近してみたい。逆に開発には脳科学的知見を利用して、どうしたらわれわれの能力を拡張できるのか日々試行錯誤で挑戦しているのではないか? と推測してしまう。

われわれは仮想現実の中で手術している? あるいは仮想現実の中でも手術できるようになる?
文献

1)A. K. セス:脳が「現実」を作り出す.日経サイエンス編集部(編):脳と心の科学―意識,睡眠,知能,心と社会(別冊日経サイエンス 243 ).p36-44,日経サイエンス,2021.

(本連載は医学書院のWebサイト『Medical Mashup』より許諾を得て転載しています)

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