救急診療について

19:00〜翌6:00まで 026-295-1291(直通)
上記以外の時間帯 026-295-1199(代表)
救急診療について

メニュー

  • 医療関係者の方

  • 採用情報

  • 臨床研修・後期研修

お知らせ

ロボット手術はなぜすごい 連載 第24回

コラム ロボット手術はなぜすごい

2025/04/07

第24回 なぜ、あなたの名はダ・ヴィンチ?

ノラリ・クラリ(ロボット外科医)

Intuitive Surgical社が、このすばらしい手術支援ロボットに「ダ・ヴィンチ」(da Vinci Surgical System)とネーミングしたのはなぜか? もちろんルネサンス期の万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチから由来していることは間違いないが、実は彼は私生児であり、その名前の意味は「ヴィンチ村のレオナルド」である。したがって「ダ・ヴィンチ」だけだと単に「ヴィンチ村の」になってしまうが、当然、人口に膾炙したダ・ヴィンチのほうが、レオナルドよりいけているから? ナイスな感じがするから? そしてレオナルド・ダ・ヴィンチでは長すぎるからであろう。

驚くべきことに、故さいとう・たかを氏の『ゴルゴ13』には、ゴルゴ13がダ・ヴィンチを操り、自分自身を手術するという話がある(1万キロの狙撃)1)。当時、さいとう・たかを氏は70歳を超えており、よく勉強されているなぁと感心した。このストーリーもダ・ヴィンチの可能性や利点を最大限に感じさせる秀逸なものであった(ただし、作中ではダ・ヴィンチではなくレオナルドという名前で登場します)。

解剖学者と画家の「モノの見方」

私はこの手術支援ロボットがダ・ヴィンチと名付けられた理由として、レオナルド・ダ・ヴィンチが実際に死体解剖を行い、人体の構造や機能を探究し、人体解剖図譜の完成を試み、医学に貢献したからではないかと漠然と思っていた。ダ・ヴィンチの人体解剖図は人を魅了してやまない。ある仮説をもって観察することで、見えないモノが見えるようになる。ダ・ヴィンチの解剖図の魅力は「モノの見方」にある。ダ・ヴィンチは尽きることのない好奇心をもって、人体を見たのである。「モノの見方」が凡人とは圧倒的に異なる。そして彼は、観察して発見したこと、気づいたことは、必ず描き残す。描き残されなければ、どんな発見も忘却の運命にあるからである。その意味でもダ・ヴィンチは画家としての利点を大いに発揮したと言える。人体は画家の目で把握し、画家の腕で表現された。藤田英親氏によれば「ダ・ヴィンチは人類史上初めて、観察力だけでなく表現力を合わせ持った解剖学者であった」のである2)。私も外科医の利点を生かして、手術解剖を極めたいと願ってはいたが・・・。

ダ・ヴィンチは解剖で多くの発見をした。 それは彼の芸術家の目と科学者の目を持ってすれば、決して不思議なことではない。描くことによって発見したこともあったであろう。特に機械に興味のあったダ・ヴィンチは、関節やそこに付着する筋や腱などを見事に描写し、その運動の仕組みをあばこうとしているし、水力学の視点から、心臓の弁の仕組みを詳細にあばこうとしている。そういった意味でもダ・ヴィンチの表現方法は卓越しており、現代の解剖書の描き方に通ずるものがある(例えば、これも彼の考案によるらしいが、脊椎の構造を前・後・横の3方向から図示することによって三次元構造がわかるようにした)。 逆に現代の解剖書がダ・ヴィンチの表現方法を踏襲していると言っても過言ではない。

ダ・ヴィンチは自分の解剖図譜を出版する構想を抱いていたが、本当に残念ながら完成には至らなかった。したがって、彼の解剖図譜はヴェサリウス以降の近代解剖学には全く影響を与えることはなかったのである。なぜか彼の解剖図譜は弟子に譲られたあと長い間行方不明になり、19世紀になってイギリス王室のウィンザー城の古いトランクの中から、まとめて見つかったそうである(ウィンザー・コレクション)。

Intuitive Surgical社のホームページによると、これら人体解剖の探究によって、ダ・ヴィンチは人体の構造や機能に魅せられ、機械仕掛けの騎士(Leonardo's mechanical knight)を考案した(1495年頃)。これは歴史上、最初のロボット(正確にはロボットの原型)と言えることから、その設計者である彼に因んで、初の手術支援ロボットを「ダ・ヴィンチ」と命名したそうだ。

付録:モナリザの微笑(ほほえみ)

人間の表情について、科学的な視点から最初に探究したのが、レオナルド・ダ・ヴィンチである(と思われる)。彼は、最初は人物画のために、人体解剖の知識が必要と自ら人体解剖を数十体行い(防腐剤のなかった当時、人体解剖は困難を極め、よほどの技術と段取りが要求された)、その解剖図譜は完成には至らなかったが、後に『ファブリカ』を著し、解剖学の始祖と称えられるヴェサリウスよりも、示唆に富んだ図譜と考察を残している。多くの発見もしていて、画家としての強みを大いに発揮したのである。そして人体の構造から、しだいにその興味は巧妙な機械のような仕組みの方に移っていったことも窺いしれる。特に興味を抱いたのは、ヒトの脳と神経系が、どのように感情を体の動きに伝えるかだった(彼の興味は、ほかにも山ほどあったが……)。実際、脳や脊髄から降りてくるすべての神経を描き、「四肢の随意運動を引き起こす神経は、脊髄から出ている」と説明している。そして、顔の皮膚を剥ぎ、表情筋の仕組みをあばいた。「人間の唇を動かす筋肉は、他のあらゆる動物より多い。唇がとりうる形と同じ数の筋肉に加えて、その形を解除するための筋肉がまたたくさんある」「唇を収縮させる筋肉は、下唇を形づくるものと同じである。他には唇を尖らせる筋肉、大きく開く筋肉、内側に丸める筋肉、まっすぐに引き結ぶ筋肉、横方向にねじる筋肉、そして最初の位置に戻す筋肉がある」などメモに記されている。また、その片隅には、唇を引っ張る筋肉を示している。これは人間の微笑みを科学的に解剖した最初の記録である。そして、ちょうどこの頃、ダ・ヴィンチは「モナリザ」を描いていた3)

文献
  • 1)さいとう・たかを:ゴルゴ13―1万キロの狙撃.191,リイド社,2018.
  • 2)藤田英親:レオナルドの解剖学.池上英洋(編著):レオナルド・ダ・ヴィンチの世界.東京堂出版,2007.
  • 3)ウォルター・アイザックソン(著),土方奈美(訳):レオナルド・ダ・ヴィンチ.文藝春秋,2019.

ダヴィンチは人間の微笑みを科学的に解明しようと、執拗に表情筋を解剖した。
ちょうどこの頃、ダ・ヴィンチは「モナリザ」を描いていたらしい。

(本連載は医学書院のWebサイト『Medical Mashup』より許諾を得て転載しています)

最新情報

  • イベント・セミナー

    5/13(火) 開催 看護週間のイベントのご案内

  • 広報

    病院広報誌「あした元気になあれ95号」を発行しました

  • お知らせ

    2025年 春の大型連休中の診療体制について

  • イベント・セミナー

    5/17(土) 開催「第22回 日本医療マネジメント学会 長野県支部 学術集会」のご案内

  • お知らせ

    植込型補助人工心臓管理施設に認定されました

なにをお探しですか?

ページトップへ戻るボタン