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ロボット手術はなぜすごい 連載 第28回

コラム ロボット手術はなぜすごい

2025/05/05

第28回 アサリの紋様とパターン認識

ノラリ・クラリ(ロボット外科医)

1つ、目の前に初めてのアサリを置かれて、即座に「これはアサリだ!」と認識できる能力はすごくない?
パターン認識は無意識である?

子どもの頃、貝殼の収集に凝っていた時期があった。多くの貝は同じ種類であれば貝殻の色や紋様は類似している。一方、アサリの貝殻は実に多様で、全く同じものはない。大人になって、自分の子どもが夏休みの自由研究のテーマ選びに困っている時、アサリの貝殻を色や紋様で分類してみたらどうかと思いついた。地味ではあるが、いくつかの類型に分けることができるのではないかと考え、潮干狩りで採ったものや、料理用に買ってきたものを調べてみたのである。

結果、アサリの貝殻はあまりにも多様性に富んでおり、大まかに分類することすら不可能であることが判明した。ただし、ある1つのアサリを目の前に置かれれば、一目で間違いなく「これはアサリだ」とわかるのは不思議な能力である、ということに気がついた。これをパターン認識というのではないか。ここからパターン認識とは何か、脳内でどのように処理されるのかについて、考え込むことになる。

「これは〇〇である」と認識することは、そのモノからの感覚情報が自分の脳内の記憶情報と一致することである。「これはアサリである」と断定できるのは、脳内に蓄積されたアサリの貝殻の質感や紋様、あるいは色調についての莫大な記憶があり、それらに一致したからであろう。当然、今まであまりアサリの紋様に興味がなかった人は記憶量が少ないので、アサリだと認識できないこともあろう。おそらく人工知能(AI)がアサリを認識するには、アサリの特徴を数多のチェックポイントとして設定し、提示されたモノとの合致率が100%に近ければ、アサリであると断定するのではないか? 一方、ヒトの記憶は脳内に無意識に蓄えられているので、正確さには多少欠けていて曖昧さがあるかもしれないが、今まで見たこともない紋様であっても「アサリらしい」と判断できる柔軟性も兼ね備えているのではないか。結局、ヒトの場合、パターン認識も過去の蓄積した記憶のどれかが反応して、無意識の直感で認識している。ここでも無意識に蓄えられた記憶が重要な役割を果たしているのである。

運動パターンの集積が上達の秘訣

今度は運動について考えてみよう。野球でキャッチボールや、ノックでゴロの捕球の練習をする。当然、ボールの速度や回転、ゴロのバウンドの位置や、地面から跳ね返ったボールの高低など、全く同じ条件で飛んでくるボールはないはずだ。それでも練習を重ねれば、右側から来ても、左側から来ても、ボールの高さによってグローブの向きを変えたりして、捕球できるようになる。ゴロの強さやバウンドの大きさによって、どのタイミングで捕球するのがよいかも、だんだん体が覚えてくる。 一塁への送球も考えて、ダッシュしてショートバウンドでキャッチしたり、グラブを持った手の反対側に速いゴロが来た場合の体の使い方など、飛んでくるボールのパターンがある程度同じであれば、多少のバラツキや変動は、捕球動作のパターン記憶によって吸収可能である。練習を積めば積むほど無意識のパターン認識の幅が増え、それに対応する運動パターンも増えて、かつ精度が高まるのである。そのうち変な回転でバウンドした場合、どちらに跳ねるか、バウンド後の速度が落ちるか早くなるのかまで予測できてしまう。

パターン認識も運動パターンも、脳内に記憶として蓄積されるので、われわれは無意識にすごいことができるようになるのだ。脳は高度な計算をして、認識したり、運動したりしているのではない。莫大なパターン化した記憶を即座に呼び出しているのである。

よくよく考えてみれば、われわれ外科医の手術も最初のうちは、解剖や剥離面を慎重に観察し、手術の手順を綿密に意識して計画的に行うが、同じ手術を繰り返し行って、そのうち何百例と経験数が増してくれば、剥離面の認識も手術の操作もパターン化され、無意識に記憶化されるので、考えることなく再現性のある手術が可能になってくるのである。特にダ・ヴィンチ(da Vinci Surgical System)の手術は自動化されやすい。他の分野の達人と同様に、手術やダ・ヴィンチの達人とは、実地訓練と経験を積み重ね、普通の外科医には認識できない微妙なパターンを蓄積し、識別でき、かつ適切に対処できるようになったヒトであると言えるのではないか。

(本連載は医学書院のWebサイト『Medical Mashup』より許諾を得て転載しています)

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