私が泌尿器科医になった30年以上前は、手術のほとんどはお腹を大きく切開して、腎臓や膀胱のがんの手術をしていた。
内視鏡の手術は、硬くて太い内視鏡が尿道からかろうじて挿入できる、小さな膀胱腫瘍や前立腺肥大症の手術に限られていた。前立腺がんの手術はまだ外科解剖が明らかでなかった日本ではほとんど行われていなかった。ボンクラな私は,泌尿器科医になったばかりとはいえ、現在のような内視鏡でロボットの助けを借りて、繊細かつ高度な手術ができるようになるとは、当時は想像すらできなかったのである。
このロボット支援下手術によって、骨盤の奥深くであろうが、臓器と臓器の隙間のような狭い場所であっても、内視鏡にて直視下に、人間の手や指より器用に手術器具を操ることができ、出血もほとんどなく、美しく無駄のない手術が提供できるようなった。手術は劇的に変化してしまったのである。
一方、手術は進歩する医療機器やロボットの助けを借りるとはいえ、基本は外科医の腕や技術による、と考えられてはいる。本連載では、外科医がいかにして手術技術を習得してきたか、訓練や教育がどのように変化してきたか、やはり最近,大きく発展している脳科学の知見から解剖してみようと思う。それとともに、なぜロボット手術が優れているのかを示したい。
(本連載は医学書院のWebサイト『Medical Mashup』より許諾を得て転載しています)
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