2025/07/28
最後のイラストなので、🖤をいっぱい描きました(ノラリ)。
最後までお読みいただきありがとうございました。
これまで、私は「ロボット支援手術がなぜすごいのか」を、できるだけわかりやすく、脳科学の視点を交えながら、つたないイラストとともに綴ってきたつもりである。少しでもそのすごさに「なるほど!」とか「へぇ!」と感じていただけたなら、とても嬉しい限りだ。一方で、実際にロボット支援手術に慣れた外科医の方々は、「そんな当たり前のことを?」と思われたかもしれない。それは、あまりにもロボット操作に慣れすぎて、そのすごさに気づかなくなっているのだろうと思う。実は名人でさえも、なぜ自分は上手くなったのかということを意識できないのである。この連載を通じて、ロボットの技術的な進化や自分たちの脳の働きのすごさに、改めて気づいていただけたら幸いである。
こうした脳の能力をサポートし拡張させるのがロボット手術であり、人間の知覚やスキルの可能性を広げる、革新的な医療技術なのである。
手術のように体で覚える記憶(手続き記憶)は、人間がもつ素晴らしい能力の1つである。私も50歳をすぎてからダ・ヴィンチ手術(da Vinci Surgical System)を始め、今では(錯覚かもしれないが)自分の体の一部のように操作できるようになったと感じている。……ただ、スマホの操作手順がわからなくて、同じことを何度も息子に聞くことになり、「オヤジは本当に、ダ・ヴィンチってやつで手術ができているのか」と、とても心配してくれている(笑)。
ロボット支援手術は、「陳述的に暗記して覚える」というより、「非陳述的に慣れて体に覚え込ませる」ことで上達できるように作られている。「習うより慣れよ」で習熟できるように開発されたダ・ヴィンチは、やはり素晴らしい。今後、さらにさまざまな機能の付加や、全くコンセプトの異なる技術革新もあるであろう。そして人間の能力にも、まだまだ無限の可能性がある。
最後になるが、ヒトの脳とAIの相違を、私が学んだ脳科学で解釈すると、ヒトの脳は専門分野では直感(ある程度限られた非陳述記憶群にアクセスする)を利用して対処するが、AIは莫大な意味記憶の中から高速計算・高速解析によって、最適解を見つけて対応する。そしてヒトの記憶、特に無意識の記憶(質感、触感、運動記憶、深部感覚)は過去の経験(試行錯誤)や身体性に基づいている。したがって、ヒトの高度な直感は身体性を伴う技能において優位であり、身体性を持たないAIが優位に立つのは情報処理型の非身体的領域においてである。チェスや将棋など、複雑でもルールのあるゲームにおいては、身体性がないので、ヒトには不可能な高速計算によって、短時間で最適な一手を選び出せる。AIの“直感(厳密には直感ではないが)”は、経験則というよりも統計的推論と高速処理に基づいていて、プロ棋士を上回るようになったのである。一方、外科手術やスポーツ、工芸など微細な身体性を要する領域においては、AIが完全に代替するのは現時点では困難ではなかろうか。
この連載をあらためて、一般の方も含めて、身体的技能の上達論として再読していただければ幸いである。
(本連載は医学書院のWebサイト『Medical Mashup』より許諾を得て転載しています)
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