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ロボット手術はなぜすごい 連載 第6回

コラム ロボット手術はなぜすごい

2024/12/02

第6回 尿もれゼロをめざして

ノラリ・クラリ(ロボット外科医)

前立腺は、精液をつくる臓器である。そのため前立腺の手術では、男性にとっては射精や勃起障害といったデリケートな問題が生じる。また、「尿がもれない」ようにする働きを一部担っている。前立腺を摘出すると「尿もれ」のリスクが高くなるため、前立腺がんの手術で患者さんが一番不安に思うのは、年齢にもよるが、性機能のことより「尿もれ」のことが多い。

これまで前立腺がんの手術後は、ある程度の「尿もれ」は当たり前と考えられていて(今でもそう思っている人もいる)、ある一定の確率で重症の「尿もれ」になってしまう患者さんが出てくると言われていた。手術支援ロボット“ダ・ヴィンチ”(da Vinci Surgical System)の導入で手術のクオリティーはかなり向上したが、手術後の「尿もれ」に関して、今までこれはという予防的な手術方法はなかったのである。

しかし、最近になって手術方法を工夫することによって、手術後の「尿もれ」の改善に成功した。前立腺は、骨盤の底の尿がもれないようにする尿道括約筋という筋肉に連なるいくつかの筋肉群に囲まれている。手術で前立腺を取り出すにはこの筋肉群から剥がさなくてはならないが、その際、筋肉群を共通に被う筋膜も一緒に剥がしてしまうと(剥がすと筋肉も損傷する)、「尿もれ」が多くなる傾向にあった。手術方法としては、筋膜ごと剥がすほうが簡単だが、丁寧に筋膜を筋肉群(筋膜は筋肉のもの) につけるように前立腺を剥がすことによって、「尿もれ」を劇的に改善できたのだ。これは繊細な手術が可能なダ・ヴィンチだからこそできる方法である。

リハビリテーションやスポーツの領域には、「アナトミー・トレイン」という概念があるらしい。わたしたちの体全体は、大小さまざまな筋肉が多数連なることによって構成されている。そしてこれらすべての筋肉は、実は筋膜によって、すべて繋がっているのだ。したがって、体全体に及ぶ大きな動作をするときに、この筋肉群を筋膜が連ねて、バランスのよい動きを潤滑かつしなやかに行うことを可能にしている。イチローは強肩と言われていたが、肩だけが強かったわけではない。全身の筋肉の連動がレーザー・ビームを生み出したのである。したがって、大きな筋肉のケガで、筋膜も破綻するようなことがあれば、体全体の動きに支障が出かねない。

前立腺の下方で、尿がもれないように収縮する尿道括約筋も、実はそれに連なる骨盤の底のいくつかの筋肉群と共通の筋膜によって連結しており、その共同作用によって、尿がもれるのを防いでいると想像できる(図)。この筋膜をなるべく破綻しないように前立腺を摘出することによって、尿もれがほとんど起こらない手術が可能になったと考えている。できれば、尿もれゼロを目指したい。個人的には、筋膜温存はとても重要であると考えている。

図:括約筋の収縮時と弛緩(想像)

あくまでもイメージだが、アナトミー・トレインの理論からすると、筋膜温存例(左)では、括約筋を収縮させる時、筋膜で連なった骨盤底の筋肉も腹側に収縮し、括約筋を持ち上げ、閉鎖を強める。逆に、弛緩時(排尿時)は骨盤底が下がり、その筋膜に引っ張られて括約筋が大きく開くようになるのではないか。一方、筋膜非温存例(右)では、骨盤底の筋肉の収縮が弱く、括約筋にも伝わらないので、尿が漏れやすい。弛緩時(排尿時)は、括約筋の開きが悪いのではないだろうか。そして、筋膜があれば筋内圧の調節が可能だが、筋膜がなくなると筋内圧が変化しにくいのでは……。

前立腺の手術に限って言えば、「筋肉は裏切るが、筋膜は裏切らない」。

尿もれだけは、勘弁してほしいのう…(患者さんの声)。
なるべく尿失禁が少なくなるような手術に改善しよう。

(本連載は医学書院のWebサイト『Medical Mashup』より許諾を得て転載しています)

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