
2026/08/13
長野市民病院(長野市)の泌尿器科医でロボット外科医のノラリ・クラリ先生は、2026年3月に『ロボット手術はなぜすごい? 脳科学が明かすチョっと斜めな上達論』を上梓した。2013年からロボット支援手術に取り組んできたノラリ先生に、ロボット支援手術との出合いやその魅力について聞いた。(2026年6月16日オンラインインタビュー、計2回連載の1回目)
(本インタビューは、医療従事者向け総合医療情報サイト『m3.com』より許諾を得て転載しています)
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ノラリ・クラリ先生
1985年に信州大学医学部を卒業して、そのまま母校の泌尿器科に入局しました。臨床経験を積むため、1994年にエジプトのMansoura Urology and Nephrology Centerに1年半留学し、膀胱全摘や尿路再建などの手術について学びました。帰国後、1996年小諸厚生総合病院医長、1999年信州大学医学部附属病院講師を経て、2013年に長野市民病院に赴任。これまでに泌尿器科部長、ロボット手術センター長を務め、2026年3月に定年退職。現在は再雇用として引き続きロボット支援手術に携わっています。
泌尿器科で最も難しく複雑な手術の1つに、膀胱がんに対する膀胱全摘と尿路再建の手術があります。私が泌尿器科医になった当時は開腹手術が主流でしたが、日本の大学病院ではこれらの手術は年間10件程度しか行われておらず、経験を積むには限界がありました。ちょうどその頃、エジプトではナイル川支流でビルハルツ住血吸虫による風土病で膀胱がんが多く、膀胱全摘手術が毎日行われている施設がナイルデルタの真ん中にあることをうわさで知りました。その泌尿器科センターに留学を申し込んだところ、二つ返事で受け入れてくれることに。医師9年目にしてエジプトに渡りました。
Mansoura Urology and Nephrology Centerには、日本にもない最先端の設備が整い、泌尿器の4つの手術室は毎日フル稼働。うわさ通り、膀胱全摘は毎日、生体腎移植も週2回行われていました。印象的だったのは、手術の手順がブラッシュアップされていて無駄がなかったこと。どんな手術でも、誰が執刀医でも、手順に沿ってシステマティックに進めていけばきれいに手術が終わる。圧倒的な症例数の多さが合理的な手順をつくり上げていたのです。ハイボリュームセンターでトレーニングを受けることが、こんなにも手術の習熟につながるのかと、目からウロコが落ちる思いでした。
しかし、日本に帰ればまた手術の機会が少なくなる。せっかく覚えたことを忘れてしまうのが不安で、その日に学んだ手術の手順や手技、外科解剖を絵やイラストにして、気づいたことをメモに残しました。私のサブスペシャリティにもなった尿道外傷の再建手術もこのセンターでの経験がもとになっています。エジプト留学から数年経ち、その後の日本で培った経験も加え、イラスト主体の手術書『イラストレイテッド泌尿器科手術―図脳で覚える術式とチェックポイント』『イラストレイテッド泌尿器科手術―図脳で学ぶ手術の秘訣』の2巻を上梓しました。
子どもの頃は絵を描くのが好きで、夢はマンガ家だった時期もあります。小学生の時に石ノ森章太郎さんの『マンガ家入門』という本で、マンガの練習をしたことを覚えています。信州大学では教授の方針で、手術記録をイラストに描いて記録していました。書籍のもとになったオンライン記事の連載は、初めはイラストレーターの方にお願いする予定でしたが、編集者から「先生が描いてください」と言われて、気づけば毎回描くことが密かな楽しみになっていました。

ノラリ・クラリ先生による挿絵
エジプトでもトレーニングを積んでいたので、開放手術は多少自信がありました。しかしながら、だんだんと腹腔鏡手術が台頭してきて、その流れに乗り遅れてしまった。腹腔鏡手術は可動域が少ないことから器用さを出しにくく、技術を修得する上でハードルがありました。2012年にロボット支援前立腺全摘除術の保険適用が開始されたタイミングで、全国の大学病院を中心に、手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」の導入が加速度的に進みました。長野県内では、信州大学医学部附属病院に次いで、長野市民病院でもダ・ヴィンチを導入すると聞き、ロボット支援手術に携わりたいとの思いで2013年に赴任させていただきました。
当院は以前から泌尿器科がんの治療の評判が良く、患者さんも多かったので、ロボット手術での前立腺がんの執刀数はどんどん増加していきました。今回の書籍でも紹介していますが、ダ・ヴィンチならではの失禁の少ない方法を考案して、自信を持って患者さんに勧められるようになりました。

ノラリ・クラリのペンネームで執筆した新刊
50歳を過ぎてからロボット支援手術を始めましたが、低侵襲で出血が少ない点や開放手術のような感覚で自分の手よりも器用に動く点に大きな可能性を感じました。実機を使う前に、何度もシミュレーターで練習を重ねましたが、こんな動きができるものかと驚いたものです。あれから10数年が経ち、これまでに私が執刀したロボット支援手術は前立腺全摘術を中心に700件を超えています。

ロボット支援手術を行うノラリ・クラリ先生
骨盤の奥深くや臓器の隙間、例えば前立腺と直腸の剥離面などは肉眼では直接目視できないので、開放手術では指の感覚に頼らざるをえませんでした。ロボット支援手術では術者の意志で瞬時に内視鏡を移動させることができ、拡大視野によって細部まで見られる。しかも出血が少ないので術野はとても鮮明です。自分がミクロな人間になったかのような没入感と、前立腺の背面が拡大して眼前に現れるので、まるで初めて月の裏側を見た時のような感動があります。もっとも実際に月の裏側を見たことはありませんが……。
ロボット支援手術の魅力は言葉では語り尽くせませんが、できるだけ自分の気づいた点を本の中で言語化やイラストにして伝えることを意識しました。ダビンチを使用しているロボット外科医はその魅力を十分感じているはずですが、あまりにも慣れすぎてその魅力がどこにあるのか気づきにくいのではないか。本書ではそれを意識化させるように努力したつもりです。
後編へ続く(2026/8/20更新予定)
1985年信州大学医学部を卒業し、信州大学医学部泌尿器科入局。1994年にはエジプト・Mansoura Urology and Nephrology Centerへ留学。帰国後、1996年に小諸厚生総合病院医長、1999年に信州大学医学部附属病院講師を歴任。2013年長野市民病院泌尿器科部長を経て現職。日本泌尿器科学会泌尿器科指導医・泌尿器科専門医、外傷・救急医療副部会長、ロボット支援腹腔鏡下手術コンソールサージャン・プロクター(前立腺・膀胱)、日本ミニマム創泌尿器内視鏡外科学会腹腔鏡下小切開手術(ミニマム創内視鏡下手術)施設基準医、信州大学医学部臨床教授。
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