長野市民病院では、2013(平成25)年4月5日より手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」を導入し、より低侵襲(=身体への負担が少ない)で精巧な手術を提供することに努めてきました。
今までの経験を生かし、より安全で効率的に「ダ・ヴィンチ」が運用できるように、2022(令和4)年4月、「ロボット手術センター」を開設しました。
2022(令和4)年度診療報酬改定にともない、ロボット支援手術はこれまでの19術式に加え新たに8術式が保険適用となりました。これを機に、ロボット支援手術を受ける患者さんが急速に増えていくことが予想されます。
これからも安全で質の高いロボット支援手術を展開していくためには、統括する中枢が必要と考え、センター化を図りました。
「ロボット手術センター」は、診療科を超えたスキルの向上や情報共有のパイプ役を務めることを目的とします。
一般的に、ダ・ヴィンチ手術の長所は、低侵襲(痛みや出血が少ない)、精巧な手術手技が可能と立体視のできる拡大視野の3つが指摘されていますが、私が実感するダ・ヴィンチ手術の最も優れた特徴は、肉眼では直接目視できない部位(例えば骨盤の奥深くや、臓器と臓器の隙間など)へ、両手の手術器具と視覚(内視鏡)が同時に術者の意志で瞬時に移動でき、そこで繊細な操作を可能にしたことにあります。 例えていえば、自分がミクロな人間になって、手術したい部位のすぐそばまで行って、丁寧によく観察しながら作業するというイメージです。外科医は、この操作をトレーニングによって簡単に身につけますが、あまりにも直感的にできるので、あまりダ・ヴィンチの長所として認識されていません。この利点があるために、触覚がないにも関わらず(不思議なことに触覚は視覚で代用されるようになります)、ダ・ヴィンチ手術がここまで外科医を惹きつけてきたのだと思います。
さらに将来は、拡張人間工学や人工知能などとも親和性を持って発達していくような予感がいたします。またダ・ヴィンチのミニチュア版ができれば、現在、顕微鏡下で行うような手術も可能になるのではないでしょうか。患者さんに、より良い手術が提供できますように、この素晴らしい機器の有効かつ安全な運用が、ロボット手術センターの役割であります。
ロボット手術センター長
加藤 晴朗
長野市民病院では、2013年(平成25年)4月5日より手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」を使用した手術を行っています。
当院のダ・ヴィンチの導入は、県内では信州大学医学部附属病院に続き2施設目でしたが、当院が導入した「ダ・ヴィンチSi」は第3世代にあたり、県内では初の導入でした。
2019年に更新した第4世代にあたる「ダ・ヴィンチX」を経て、2024年6月より「ダ・ヴィンチXi」を加えた2台体制となりました。
「Xi」は「X」をアップグレードした機種で、より操作性が向上します。
当院では、2013(平成25)年4月より、前立腺がんを中心に多くの症例を重ねてきました。 これまでさまざまな臓器への適応の拡大を進め、手術件数も急増し、ダ・ヴィンチ導入から約11年半での2,000例到達となりました。
ダ・ヴィンチは、1990年代に米国で開発され、世界中で導入が進んでいる手術支援ロボット(遠隔操作型内視鏡下手術システム)です。
より低侵襲(=身体への負担が少ない)で精巧な手術を提供することが可能で、日本では2012年4月に前立腺がん摘出術において保険適用され、その後も腎臓、直腸、胃、肺、子宮などさまざまな臓器に適用が拡大されています。
長野市民病院のダ・ヴィンチの導入は、県内では信州大学医学部附属病院に続き2施設目ですが、当院が導入した「ダ・ヴィンチSi」は第3世代にあたり、県内では初の導入となりました。
2019(平成31)年4月からは、第4世代にあたる「ダ・ヴィンチX」を導入しています。
手術支援システム「ダ・ヴィンチ」の、司令塔です。
術者は手足、そして視覚を駆使することで、「ダ・ヴィンチ」のすべての操作を行うことができます。
開放手術以上に、術野を実際に目で捉えながら手術器具を直感的に操作することができます。
鉗子(インストゥルメント)や内視鏡カメラを自在に操作できます。
双眼鏡のようなレンズを覗き込むと、内視鏡が捉えた患者の術野がハイビジョンの鮮明な三次元(3D)画像で観察できます。
瞬間的に鉗子や3D内視鏡の切り替えができます。
患者さんの患部に挿入し、実際に手術操作を行う部分です。
ペイシェントカート本体は、3本の鉗子を取り付けるアーム(インストゥルメントアーム)とセンターの内視鏡カメラを取り付けるアーム(カメラアーム)からなります。
手術時は、専用の滅菌ドレープで覆います。
マスターコントローラからの指示を受けて、患部に挿入されたアームや先端の鉗子(インストゥルメント)が動いて手術を行います。
本体の底には モータードライブを装備しており、少ない力でもカートを移動させることができます。
①インストゥルメントアーム(3本)
②カメラアーム(1本)
①滅菌ドレープを装着
高解像度の三次元(3D)ハイビジョンシステムを搭載しています。
上部にはタッチスクリーンモニターがあり、術野が映し出されます。
術者以外の医師・看護師も術中の様子をリアルタイムで把握できます。
モニタの上部にはマイクがあり、サージョンコンソールにいる術者と音声コミュニケーションを容易に取ることができます。
タッチスクリーンモニタでは、サージョンコンソールで操作をしている術者と同じ映像を、2Dモニタで見ることができます。
タッチスクリーン上に指で線などを描いて、術者に視覚的な情報を伝えることもできます。
ダ・ヴィンチを使ったロボット支援手術は内視鏡手術の一種で、大きな切開はせず、体の何か所かだけ小さな穴を開け、そこに内視鏡カメラや鉗子を差し込んで手術を行います。
したがって、出血量や痛みは少なく、患者さんの体への負担が少ない低侵襲手術なので、術後の回復も早いのが特徴です。
微細な動き(左)とマスターコントローラ(右)
「ロボット」と聞くと、機械が自動的に動いて勝手に手術を行うようにイメージされる方も多いと思いますが、実際には、医師が遠隔操作(リモートコントロール)により鉗子やメスなどの手術器具が付いたロボットアームを駆使して手術を行います。 このロボットアームは、人間の手では不可能な精密かつ可動域の広い動きを実現し、手ぶれまで制御してくれるため、非常に正確な手術を行うことができるのです。
これにより、臓器の機能温存ができる可能性も高くなります。
ダ・ヴィンチのモニターには三次元(3D)ハイビジョンモニターが採用されており、奥行きまでわかる立体的な映像として映し出されます。
さらにズーム機能により、体内の奥深くに位置する臓器の細かな部分まで拡大されてよく見えるので、手術の質は格段に上がります。
長野市民病院では、ダ・ヴィンチ導入の2013(平成25)年4月より、前立腺がんを中心に多くの症例を重ねてきました。
2017(平成29)年5月には、約4年あまりで500例に達しました(全国で24施設目、甲信越地区初)。
その後も、さまざまな臓器への適応の拡大を進め、手術件数も急増し、ダ・ヴィンチ導入から約11年半たった2024(令和6)年9月に2,000例に達しました。
手術 | 件数 | 開始年月 |
---|---|---|
前立腺がん(摘除術) | 1,491例 | 2013年(平成25年)4月~ |
腎臓がん(部分切除) | 182例 | 2016年(平成28年)6月~ |
膀胱がん | 97例 | 2018年(平成30年)7月~ |
胃がん | 75例 | 2016年(平成28年)9月~ |
縦隔腫瘍 | 20例 | 2018年(平成30年)11月~ |
肺がん | 40例 | 2022年(令和4年)4月~ |
直腸がん | 42例 | 2014年(平成26年)3月~ |
子宮疾患 | 18例 | 2022年(令和4年)7月〜 |
骨盤臓器脱 (子宮脱、膀胱瘤、直腸瘤) |
9例 | 2023年(令和5年)7月~ |
膵腫瘍 | 9例 | 2023年(令和5年)2月~ |
腎盂形成 | 6例 | 2022年(令和4年)8月~ |
結腸がん | 2例 | 2024年(令和6年)7月~ |
その他 | 9例 | |
総計 2,000例 |
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